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どこにいても
Posted by: 鈴木並木 SUZUKI Namiki (→Profile)

○収支に愕然とする(3年連続3度目)

5月の末にリトル・プレス「トラベシア」の第3号を発行して、2か月で手元の在庫がほぼゼロになりました。いい機会なので、経緯を振り返っておくことにします。創刊号のときにも同じような趣旨の記事を書きました(→☆)。2017年発行の第2号のときには書くつもりでいたものの、もろもろの事情で結局書きませんでした。

まずは簡単な収支決算から。

・支出:
各種ギャラ(原稿料、デザイナーとイラストレイターへの謝礼、発刊記念イヴェント出演者への出場料)、印刷費、できあがったものの発送費
→合計約32万2000円

・収入:
できあがったものを売ったぶん(手売り、お店への卸し、BOOTHなどを使った通販)
→合計約11万4000円

あらためて計算すると、やはり、愕然とします。ご存知の方はご存知の通り、わたしは昨年秋から無職であり、そう考えるとなんというか、ありえないです。

もうちょっと詳しく見てみましょう。まず、収入について。今回、300部つくって、定価が500円なので、原理的に、収入が最大15万円以上になることがないのは最初からわかっていました。有名人などへの宣伝目的での献本は一切おこなっていませんが、執筆者などにはもちろん無料で進呈します。お店へは7掛け(1冊350円)で卸しています。そう考えると、回収率としてはまあこんなもんかなと。ちなみに今回、お店に卸したぶんと、それ以外(手売り、BOOTHなどでの通販)のぶんの冊数の割合はほぼ半々でした。あ、そうそう、カンパの意味で多めに入金してくれたひとが複数人様いらっしゃいまして、本当にどうもありがとうございます。

次に支出について。具体的な金額の開示は避けますが、印刷費の割合が、高いです。創刊号以来ずっと、同じ印刷所にほぼ同じ仕様(紙、印刷方法)で頼んでいますが、昨年リリースした第2号のときの印刷費と比べて、明らかに割高になっている気がします。原稿料をはじめとした各方面への謝礼の額は、わたしが考える最低レヴェルでして、いくらなんでも現状の2倍くらいお支払いしたいと思ってはいるものの、この収支状況だと、難しいです。

○じゃあどうすればいいか(金の話)

じゃあどうすればいいかって話で、誰でも思いつくのは定価をもう少しどうにかしたらどうかということでしょう。たぶん、定価を1000円か1200円にして、それでもって完売すれば、経費が回収できるか、それに近いところまで、いきます。ただし定価を上げると当然、売り上げ冊数は減りますし、買ってくれたひとも内心「高いな……」と不快に思うに違いないので、それは避けたい。もっとも、現在の価格設定でも、内容やその他の好みが合わずに、高ぇよ、と感じている方はいらっしゃるでしょうけど、さすがにそれに対してなにか(反論や説得)言おうとは思いません。常識で判断してよ。

あるいは、部数を増やす(たくさん印刷する)と1冊あたりの原価は下がるので、たとえば1000部つくって、それを全部売ることができれば、収支はだいぶ改善します。潜在的にはそれくらいの需要はあると思っているのですが、いままで売ってきた手ごたえからすると、すぐにその段階に達するのは難しそう。

あとは臨時収入というか、付帯的な収入があると嬉しいですね。たとえば発刊記念のイヴェントに出て、ギャラをもらうとか。自分でやった「渋谷並木座」(→☆)は、準備にいろいろお金がかかって、儲かる類のものではないです(儲けるつもりもない)。なので、たとえばどこかの本屋さんで、何人かのリトル・プレス発行者が集まって内情を話すトークをする有料イヴェントとかすると、面白いと思います(司会もわたしができますよ)。ギャラの発生する原稿依頼なども含めて、随時オファー受付中です。

収入を増やせればよし、増やせなければ、支出を減らすしかない。事実上、削れるところは印刷費のみで、これについては今後、真剣に考えざるをえないと思っています。ただし、安い印刷所にするとクウォリティが下がるのではとの懸念は当然あり、このへんはおいおい調べます。

そうだ、これだけは言っておかなくちゃ。もし自分でリトル・プレスを始めようと考えているひとがいて、20万赤字になるのかーとがっくりして思いとどまろうとしているとしたら、思いとどまらないでください。同じような規模でやるとしても、収支トントンにする方法はいくらでもあるはずですし、また、赤字10万出たとして、たとえば自分だけでつくるのでなくて3人とかでティームを組んで均等割りすれば、ひとり3万ちょっと。それで、事前の相談から発行まで何か月も楽しめると思えば、遊びにかかる金としてはもう、タダみたいなもんでしょう。いますぐ始めてください。

○漠然としすぎている

行きがかり上、金の話から始まってしまいましたが、内容について。今回で3冊目なのでつくりかたの流れやコツみたいなものはつかめてきたものの、やはり不測の事態やコントロール不能な出来事は起きてしまうもので、案外スムースにはいきませんでした。それらの(すべてとはいいませんが)多くは、わたしの慢心と油断と無神経とが招いたものなので、反省しています。

それはそれとして、そうしたあれこれは最終的な完成品には一切悪影響を与えてはおらず、仕上がりについては大変満足しています。執筆者のみなさん、インタヴューや対談に登場してくださったみなさん、いつもすばらしいイラストを描いてくださる畑中宇惟さん、細かいところまで気を配ってくれるデザイナーの村松道代さん。どうもありがとうございます。感謝。

創刊の時点から、いわゆる一般的な知名度のあるひとと、得体の知れないひととを混在させて、たいして役にも立たない、ただ日本語であるだけの文章を書いてもらいたい、と考えてきて、少しずつ試してきました。ひとまず今回、ほぼ完全に狙いを達成できました(参加をお願いしたけれども諸事情で受けていただけなかったひとが複数いましたが)。

さきほど書いたように、「生産性」のないこういう雑誌を面白がって、喜んで買ってくれる貴族趣味のひとはいろいろな場所に少しずつ、もっともっと、トータルするとかなりの数、いらっしゃるはずなのですが、と同時に、得体の知れないものに金を払ってもらうことの難しさを、痛感してもいます。そもそも、少し考えればわかるとおり、世の中には、「おかあさん」などといった漠然としたテーマで検索してリトル・プレスを探す人間は、たぶん、いない。

本屋を回ったりネットを見たりしていると、リトル・プレスや個人の出版物の中にも、ぱっと見て「ああなるほど、これは売れそうだな」と感じられるものは、あります。買ってはいないので名前を出すのは控えますが、それらの多くはコンセプトが明確で、すぐに意図が見て取れるもの。そうしたものが実際にどれくらいの部数売れているのかは存じ上げませんが、内容の面白さではこちらも負けていないと思っています。

○じゃあどうすればいいか(ふたたび)

ふたたび、じゃあどうすればいいかって話で、テーマを少々せばめて、漠然じゃなくすればよいのかもですが、わたし自身がそういう方針でなにかをつくったときにできあがるもののイメージは、より深まった精緻な議論が展開される雑誌になるというよりか、「大喜利」「あるある」になってしまうのではないかとの危惧です。わたしには、いかなる意味においても「ユリイカ」はつくれません(「ユリイカ」において常に深く精緻な議論が展開されているという意味では必ずしも、ない。単なるたとえです)。

漠然とした状態のままで、いまよりもたくさん売る方法はないか。工業や商業の世界の話はわかりませんが、文化と経済の交差点あたりに立ってあたりを見回してみると、「人間(の名前)」が、いまだに、いちばん、理不尽なまでに利ざやがよい、濡れ手で粟の資本のようですから、発行人(わたし)が有名になるのがいちばんの近道なのでしょう。たとえば「トラベシア」が、中身はまったく同じで、「責任編集 糸井重里」ってなってたら、一瞬で10倍くらい売れるのは間違いありません。

わたしに関してはそれは望み薄なので、だとするとあとは、継続することによって少しずつ信頼されていくとか。いままでに出た号をお読みになったみなさんは、だいたいこんな感じの雑誌か、とおわかりになったと思うので、次号の案内を見かけたとき、あ、誰それと誰それがまた書いてるのか、だったら買ってみようかな、と思うかもしれない。思ってほしい。いや、きっと思うに違いない。ということを繰り返していくと、裾野が少しずつ広がって、10号目くらいで(2025年/わたしが52歳の頃?)、1000部くらいは発行できるようになるのではないか。

○イースト・ヴィレッジにおける啓示

しかし、当初の構想では、とりあえず3号をもって終刊にする見込みが濃厚でした。5月の連休明け、あらかた集まった原稿類に手ごたえを感じつつ、ゲラなどのやりとりをしつつ、未提出者に催促をしつつ、その時点ではもう、だいたいこの程度のものができるなということはわかっていて、そして経費もおおまかな見当はついていますから、ということはつまり、全部売ってもかなりの赤字になることも、わかっている。

こづかい稼ぎにはならなかったけど、発行を機に新しいつきあいもできたし、もともと知っていたひとたちの知らなかった側面を見ることができたし、いくつかの本屋さんから声をかけてもらったりこちらから押し掛けたり、読んでくれたひとから感想をもらうのは楽しいし、金がかかりすぎる以外は嫌なことはひとつもないんだけど、でもまあ、潮時かな。次やっても、やらなくても、そんな変わんないし。なるほど3号雑誌とはこういうことか。

ところでその時分、わたしはたまたまニューヨークにいて、昼間はそのへんをうろうろして、夜になるとブルックリンの安宿の地下の部屋に戻ってきてはスマートフォンを使って、やりづらさに難儀しながら日本とゲラのやりとりをしていました(帰ってからでないとどうにもならないことがあるかも、と危惧していたけど、結局、なんとかなった)。

そんなある日、イースト・ヴィレッジのA1レコーズでコルティーホ・イ・ス・コンボのLPを買って、次の目的地であるグッド・レコーズNYCに向けて歩いている途中の道すがら、ふと、あ、もう1回はできるな。やれるんじゃないか。出したい。来年またつくろう。いままでとは少しちがった方法と顔ぶれで。と、ごく自然に、思ったのです。

○どこにいても

ニューヨーク訪問は複合的な理由によるものでしたが、着いた次の日の朝いちばんで行ったのが、ブルックリンのマウント・ジュダ墓地。「渋谷並木座」で上映した映画「The Sweetest Sound」の監督、アラン・ベルリナーの一家の墓参りです。ご覧になった方はおわかりのとおり、映画にも出てきています。映画の撮影の年だか翌年だかに監督のあのお父さんも亡くなっていて、ここに埋葬されています。ユダヤ人墓地らしく、なんとかマン、なんとかバーグという苗字がやたらと目立っていて、また、墓碑に彫られているのも英語はもちろん、ロシア語、ヘブライ語と、マルチリンガルな環境でした。ちょっと迷った末、日本でそうしているように、普通に手を合わせてきました。

その翌日は911メモリアルのモニュメントと、自由の女神、そしてエリス島の移民博物館。911の記念館があるのは知っていて、そこを見ちゃうと時間と金がかかるのでとくに予定に入れてませんでしたが、自由の女神に渡るフェリーの時間まで余裕があったので手前で地下鉄を下りて、とりあえず昔なにかのビルがあったらしい場所まで行ってみたところ、普通に犠牲者の名前が刻まれたモニュメントがあり、近づいてその名前に触れることが推奨されている。もちろんすべてを読むのには膨大な時間がかかるので、ほんの一部を眺めただけですが、当たり前だけどさまざまな民族に由来するっぽい名前が並んでいる。これもまたご覧になった方はおわかりのとおり、「The Sweetest Sound」は人間の名前にまつわる映画なので、この時点ですでにわたしは泣いています。

そして自由の女神と移民博物館。おすすめ。一度は行っておいていいと思います。とくに移民博物館、これは移民についての博物館ですが、合衆国建国以前から21世紀の現代まで、時代に応じてさまざまにその意味するところを変化させながら、常に国の力の大きな源泉であり続けている移民を考えることとは、すなわちアメリカを考える行為そのもの。そのための材料を満載した巨大で行き届いた施設が、ほかならぬこの島に存在している事実に、感極まらざるをえません。またしてもご覧になった方はおわかりのとおり、「The Sweetest Sound」はアメリカに移民してきたユダヤ人についての映画でもあるので、そんなあれやこれやもあって、終始半泣き状態で見て回りました。

ちなみに日本でも、横浜に海外移住資料館(→☆)というのがあって、こっちは日本人がどうやって・どんなところに出ていったかについて知ることができる施設。無料でエモくなれるので、近くに行った際にはぜひ寄ってみてください。

さて、そんな911メモリアル〜自由の女神〜エリス島、と回った翌日に雷鳴のようにわたしを直撃したのが、上に書いた、もう1回はできるんじゃないか、の啓示でして、陳腐な話で甚だ恐縮ですが、ニューヨークで、わたしの脳の日本語を扱う部分になにかいつもとは異なった刺激が与えられたのかもしれない。結局、どこにいてなにをしていても、日本語でなにかを考えているらしくて、少なくとももう1年は、それを続けることになりそうです。

○第2号「労働」の宣伝

ところで、上のほうで、昨年リリースした第2号「労働」(→☆)のときには、編集や発行のあれこれのまとめ記事をもろもろの事情で書かなかった、と書きました。正確には、そんなたいそうなアレではなくて、単にまだたくさん売れ残ってしまっているので、いつ気持ちの区切りをつけたらいいかわからなかっただけの話です。

売れ残った理由を考えてみると、

・部数をたくさん作り過ぎた(創刊号250部→第2号400部)
・定価を上げてしまった(創刊号500円→第2号800円)

このふたつに尽きます。定価が変更になったのは、創刊号はもともとサーヴィス価格で安めにしていたのと、第2号ではページ数が増えたからなのですが、それでも創刊号が好評だったからこれで充分行けるだろう、と調子に乗ったが故の判断ミスです。すべてわたしの油断と慢心によるものです。

内容に関してはこちらも、創刊号、第3号と同じくらい面白い、と自負しております。買うことをおすすめします。まだ一部店舗では店頭に置いていただいていますが、通販だとより確実です。BOOTH(→☆)だとコンヴィニ払い、クレジットカード払い、ペイパル払い、などができます。わたしの口座(三菱UFJ、みずほ)への直接振り込みや、アマゾンギフト券でのお支払いをご希望の場合は、suzukinamiki@rock.sannet.ne.jpまでメールください。1冊あたり800円+送料は何冊でも180円です。よろしくどうぞ。

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