Eat Much, Learn Slow (& Don't Ask Why)

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家事(あるいは家についてのことについて)
Posted by: 鈴木並木 SUZUKI Namiki (→Profile)

フィルムセンターの「発掘された映画たち2018」、内容が発表されたときにはあれも見たいこれも見たい、と興奮したものだけど、考え直して行くのをやめたり、寝坊して行けなかったりして、見たのは結局6プログラム。森紅と服部茂の個人映画、15年ぶりくらいに見た小津の「浮草」(35mmのニュープリント、少し寝た)、「スワノセ・第四世界」(ゲイリー・スナイダーの日本語、さすがにうまい)、望月優子監督の中篇2本(どちらも素晴らしかった)なんかを、シネマヴェーラで開催されていた柳澤寿男特集と行ったり来たりしながら見ていると、自分の持っている「日本映画」の枠が両手で抱えきれないほどに広がっていくようで、こういう瞬間がいちばん楽しい。

最後に見たのが岩佐寿弥の叛軍シリーズ。発掘されて今回がひさしぶりの上映だったらしい「叛軍No.1」「叛軍No.2」「叛軍No.3」のあと、岡田研究員の解説があり、続いて「叛軍No.4」の参考上映という流れ。変わった構成だけれども、岩佐が興味を持っているポイントの移り変わりがダイナミックにあぶり出されるようで、番組構成、解説とも、これでよかった。というか、これがよかった。

たぶん初めて見る「叛軍No.4」、開始早々からぐいぐい引き込まれ、半ば過ぎまでは「やっべ、俺はいままでこれを見ずに日本の戦争映画がどうこうとか言ったり書いたりしていたのか」と冷や汗をかきながら見ていたのだけど、途中(3つのパートに分けるとすればパート2の中盤あたり)から急激に熱が冷め、映画が突然ぶちっと(見たひとは分かるとおり、比喩ではない)終わったころにはなんとなくもやもやとすっきりしない気分になっているという、ここで、そういえば「ねじ式映画 私は女優?」も、なんとなくすっきりともやもやとしない映画だったなと思い出す。

網膜剥離で入院する3週間前の2017年の正月、2016年の映画などを振り返って、こう書いていた。(→☆)

ここ数年、いわゆる「お話」には飽きている、というか、そういうのはある特殊なアメリカ映画がやればいいんじゃないかとなんとなく思っているってのはあります。しかし、そのことと、今回挙げた日本映画の多くがいわゆるドキュメンタリーに分類されることとは、おそらくそれほど直接的には結びついていません。

つまり、お話に飽きたからドキュメンタリーに興味が移りつつあるとか、そういう単純なアレではない。「チリの闘い」はもちろんのこと、「息の跡」も「ディスタンス」も、それぞれ「お話」の映画だと思っていて、語られ方におおいに魅力を感じている、ということなのですが……とはいえ、それに関する自分の気持ちをうまく説明する言葉はまだ見つかっていません。

いま現在でもこの考え方はあまり変わっていなくて、それで、というか、しかし、というか、だのに、というか、どんな接続詞でつないだらいいかよくわからないのだけど、「叛軍No.4」のパート1を見ながら思っていたのは、これは面白い話で、いま自分は話に引き込まれている、しかし(ここは「しかし」でいいと思う)、これに類した話はもうすでにどこかで聞いた気がする、ということだった。そんなことを明確に意識していながら、同時に話に引き込まれるなんて、そんな状態がありうるものかとこれを書いているいまからするとそう疑わざるをえないのだけど、見ながらたしかに、この面白さはどこからやってくるのだろう、細部の展開か、よどみない口調か、などと考えていた。画面はほぼ、黒板の前に立って叛軍体験を話し続ける男のバスト・ショットの長回し、サングラスをかけていて表情はうかがい知れない。

そうなるとどうしても、声色、よどみない流れ、そして話の中身に注目させられることになる。ただしこの男は本題に入る前のあたりで、告白めいた調子で、「いままで叛軍体験を話したことがなかったのは、自分の経験が半分はウソによってむしばまれボロボロになり、残りの半分は真実によってむしばまれボロボロになったと感じているからだ」というようなことを言ってはいなかったか。さきほど(ではないのだけど、正確には)、いわゆる「お話」には飽きている、と書いたのは、映画はもうそろそろ人間から、というか正確には、人間を過大評価することから、離れたほうがいいと思っているからなのだけど、それと同時に(というか、並行して)、映画なんて、ひとりかそれ以上の人間が、ただ適切にしゃべっていればできてしまう、とも思っていて、どちらの例についてもこのブログで複数回採り上げている、というか、ここ数年はほとんどそのどちらかにあてはまる映画についてしか書いていない気がする。

……で、なんの話だったっけ。ああそうだ、こういうことを書くと、現代映画と演劇とのかかわりとかを持ち出すひとがいるかもしれないけれど、いやでも、ハードコアなシネフィルたちが熱心にそういう話をしていたのは、テン年代前半〜中盤にかけてのモードで、その後は、演劇を見てるひとは見てるし見てないひとは見てない、って感じになっちゃってる感じだし、そもそも自分について言うと、結局最初から最後までそういうモードとは無縁のまま、人間の顔を見たり見なかったり、話を聞いたり聞かなかったり、そのときどきで、していたりしていなかったりするのだし、この書き方だと原理上あらゆる映画がどこかにあてはまる。

土曜日に見た「叛軍No.4」がからだの奥にまだ残ってる月曜日、たぶん雨が降っていたので傘をさして、草野なつか「王国(あるいはその家について)」を試写で見る。昨年の夏、みんながそこにいたような気がするある日のポレポレ東中野で小耳にはさんだ話だと4時間だか5時間になるらしいと聞かされ、昨年の秋にどこか遠くで上映されたとき(見てない)には60分とかそんな感じだったような気がするこの映画の、この日の長さは150分だった(当分この長さであり続けるらしい)。映画が伸び縮みするのはよくある話でとくに珍しくもなく、そしていまこう書いてみたのもなんの気なしに、なのだけど、この映画はほかの映画よりもとくに、より容易に伸び縮みしやすい性質を持っているみたいだ。伸び縮みする、といっても映画そのものが自発的に長さを変えるわけではなく、人間がそうするわけだけど、この映画については、映画自身が自在に自分の長さを変えるのだと言われてもなんとなく納得できそうな気さえする。

あまりにできすぎた話だけど、ちょうどこの日の昼間、テリー・ライリーのことを考えていた。考えていた理由についてはあと半年くらいたたないと明かせないしそのころになったらみなさんもう忘れているでしょうが、「王国(あるいはその家について)」はミニマル・ミュージックのように、似たような会話が何度も何度も繰り返され、その度ごとに微妙な変化がもたらされながら少しずつ、少しずつ先に進んでいく。繰り返される理由はすぐわかるので、わたしたちの興味を惹きつけて持続させるのは反復の理由や「構造」などではなくて、反復されている様子、時間、表情だ。だからこの映画の場合、一時的に金のないわたしがいつもそうしているように、見てきた配偶者から「お話」を聞いてそれで見たことにする(たいていの映画は実はそれで充分なのだが)、というわけには、いかない。進んでは不意に、大胆に戻る。あるいは船旅のように、極楽までの距離のように、男女の仲のように遠くて近い。同じようなことを100回繰り返した末に101回目で成功したりやっぱり失敗したり車道に飛び出したりすることをわたしたちは知っている。

ところでいつからわたしたちは、同じ映画を短期間に何度も見て、細かい部分にほどこされた仕掛けに気付くような余計な楽しみを覚えたんだっけ。作り手側もしたり顔で、そうした細部にまでこだわったことを得意げに開陳したりする。「王国(あるいはその家について)」はそうしたくだらない、「現代的な」楽しみ方や、「おかわり」による「気付き」を必要としていない。150分のなかに、反復と前進、反復と前進、ちょっと戻ってまた反復と前進、といった具合にすべてが収まっているので、見直すのはせいぜい2年か3年おきでいい。そうすれば死ぬまでにあと100回近くは見ることができる計算だ。

映画を見ていないあいだにわたしたちは家事(=家についてのこと)をする。100回も同じことを繰り返し、試行錯誤するのすら面倒になった101回目あたりで不意にブレイクスルーが訪れたり訪れなかったりすることをわたしたちは知っている。とてもここまでは届くまいと思った波が101回目でついに砂の城を壊す。まだそのことに気付いていないのであれば、家事を半日ほったらかして「王国(あるいはその家について)」を見ることによってその気付きが得られる。最初からメガ盛りになっているのだからおかわりは必要ない。

映画を見ていないあいだにわたしは特殊な家事(=家でする作業)をしている。同じ映画を少しずつ少しずつ、反復と前進、反復と前進、ちょっと戻ってまた反復と前進、といった具合に見る。見ているうちに英語がしだいに日本語になっていく。100回見ても英語のままだった部分が101回目で不意にブレイクスルーが訪れたり訪れなかったりして日本語になったり、依然として英語のままだったりする。この家事の詳細についてはあと半年くらいたたないと明かせないしそのころになったらみなさんもう忘れているでしょうが、その前におそらくわたしは就職して労働をする。

映画
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