Eat Much, Learn Slow (& Don't Ask Why)

calender entry comment trackback category archive link
みゆきは2006年に64歳になる
Posted by: 鈴木並木 SUZUKI Namiki (→Profile)
ぼちぼち映画に対して真剣に向き合う必要性が外的にも内的にも生じてきたもので、蓮實重彦を何冊か読む。などと書くと、いやいや読んでいるみたいだけどそんなことはなくて、ヘタな映画を見るよりか何倍もおもしろく、それでいて、見るべき(でありながら見ることがかなわぬ)映画への渇きをかきたてもするのだから、悪質な書物。ひとは、どんなときでも、映画に対して飢えている状態なのかもしれない。

蓮實を読んで、その持って回ったような文体しか学ぶものがないのだとしたらもったいなさすぎるし、彼をペダンチックだと批判する輩には、ひとにケチをつけて自分の人生を浪費するな、といいたい。まともな神経を持った人間なら誰でも(この口調がすでにハスミってるが)、蓮實を読んだら、映画に対して真剣に向き合うことの大切さと難しさに思い至るはずだし、それができないのだとしたら、最低限の礼儀をもって映画に接するべきだ。

−−−

さて、今週のベストワンのコーナー。

なんといっても川島雄三の「洲崎パラダイス 赤信号」。ラピュタ阿佐ヶ谷の平日の回が満席になった。最初見たときには、ただ、いい映画だ、ぐらいにしか思わなかったが、再見、三見すると、なんだか他人事ではないように思えてくる。たいへん大胆な音響設計がされていることには、今回初めて気がついた。

とはいえ、「洲崎パラダイス 赤信号」はいいのが分かっていて見に行ったので、ここはひとつ、初見の中村登「ぜったい多数」(65年)を推したい。これもラピュタ阿佐ヶ谷。ここでは今、モーニング・ショウで桑野みゆき特集をやっていて、その中の1本。

相手役が田村正和。このふたりが同時代人だという事実にはたじろぐ。映画では大ブレイクに至らず、TV俳優として大成した田村は、バンツマの息子であることすら忘れさせてしまうし、対して、桑野は67年には結婚して引退してしまうのだから。ちなみに桑野は42年生まれ(うちの母と同い年)、田村は43年生まれ。

同世代の女優だと、たとえば岩下志麻が41年生まれ。こうして考えると、桑野がスクリーンから姿を消したことは、たとえけっして致命的な損失というほどではなかったにせよ、やはり惜しい。

わたしは、女優が結婚して引退することは、世の中で最も許しがたいもののひとつだと思っている。

−−−

ところで、岩下も田村も、同じ成城大学の出身なのだが(岩下は中退)、それはともかくとして、「ぜったい多数」は浦岡敬一による編集がたいへんしゃれている。中村登に何を期待するって、「おしゃれな感じ」ほど、彼に期待されていないものはないだろう。ただしそれは、中村登がそういう次元とは別のところで映画を撮っているという意味であって、それ以上でもそれ以下でもない。

群像劇のように進行し、またそうあるべきはずの「ぜったい多数」を、中村は途中から、浦岡の力を大いに借りて、田村正和の映画にしてしまう。その目線は、どの子も同じくらいかわいいと思いながらもついついひとりに世話を焼いてしまう母親の目線に似ている。

歌声喫茶での歌の部分の音楽のディレクションはおそらくいずみたくによるものだろう。コーラス自体は野暮ったいけれど、伴奏はしゃれている。歌われているうちの1曲は「夜明けのうた」で、となるとどうしても、やはり65年に撮られたもう1本の映画を思い出す。蔵原惟繕の「夜明けのうた」。

−−−

この蔵原の作品は、60年代中期に彼が推し進めたオシャレ路線の、おそらく到達点の1本。映像表現においても人物造形においても、まだまだ語られるべき点をたくさん秘めている、と、こう書くのはまあ要するに、また見たいということであって、それはつまり、そう簡単に見ることができないということでもある。

中村は蔵原と違って、力づくで日本映画を刷新しようとはしなかったかもしれないけれど、「ぜったい多数」には、およそ65年の松竹作品と聞いたときには想像もしえないような、さわやかな風が吹いている。ただしその風はあまりにも軽やかすぎる。

そこで、とわたしは考える。中村のような監督こそ、外圧によってでも再評価されるべき作家ではないかと。かつて「古都」でアカデミー外国語映画賞をとりそこなった(受賞はフェリーニの「81/2」)彼を、今度は、日本趣味の代弁者としてではなく、ひとりの映画監督としてよそに出してやるのはどうだろう。

「集金旅行」「河口」の岡田茉莉子や、「紀ノ川」の司葉子や岩下志麻や、「波の塔」の有馬稲子などの美しさは、あまりにあっけなく国境を越え、喝采を浴びるはずだ。
映画
comments(1)
trackbacks(1)
スポンサーサイト
スポンサードリンク
-
-
-
兎に角、中村登は再評価されるべき。
わたしも熱く語りたくなってきました。
こねこ : 2006/06/30 10:23 AM









trackback url
http://emls.jugem.jp/trackback/51
trackback
幻の「洲崎パラダイス・赤信号」を見る
このブログでかつてご紹介しました名匠川島雄三監督の幻の作品「洲崎パラダイス・赤信号」(昭和31年作品)をようやく見ることが出来ましたので、ご報告します。この映画は、今はなき戦後有数の歓楽街洲崎パラダイスの雰囲気を伝える秀作の呼び声高い作品でしたが、な
合理的な愚か者の好奇心 : 2006/10/22 7:17 PM
calendar :::: entry :::: comment :::: trackback :::: category :::: archive :::: link admin :: profile :: RSS1.0 :: Atom0.3 :: jugem