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その不穏さの正体−スピルバーグ「宇宙戦争」
Posted by: 鈴木並木 SUZUKI Namiki (→Profile)
スティーヴン・スピルバーグ「宇宙戦争」を再見した。封切り時の最後のころに見ているので確認のつもりだったのだけど、展開が分かっているだけに余計、すっかりのめりこんでしまい、思わずひじ掛けをぐっとにぎりしめてしまう。どう考えてもすごすぎる。2005年、ベストのうちの1本でしょう!

主人公のトム・クルーズは港湾労働者。コンテナを積み降ろしするクレーンの操縦士という特殊技能で飯を食っており、なかなかの腕の持ち主。細かいところには頓着しない性格のようで、どうやらそのへんがガマンならなくなった妻は彼のもとを去っていった。ただし人間的な魅力には富んでいるようで、人種分け隔てなく友人づきあい、近所づきあいをしている。いわば、合州国の都市部に住む、生活レヴェルが中の中の下あたりの白人の良い部分も悪い部分も体現したかのようなキャラクター。

と、つらつら書いてみたが、これ、ちょっとした情報量だよ。監督は冒頭の10分かそこらでこれらすべてを観客に飲みこませてしまう。とはいえ、いちいちやぼったいセリフで説明するのではないし、もちろん、わたしが異様に情報読み取り能力に優れているわけでもない。それこそ、通常の注意力を持った人間なら誰でも、見ているだけで分かってしまうこと。自分が監督だったらこれを一体どうさばくか?と考えると、スピルバーグの話術の見事さに心から脱帽せざるをえない。

こういうことを書いているとそれこそやぼったくなるのでやめますけども、このトム・クルーズ、万能のヒーローからはおよそほど遠い。息子と娘を愛する気持ちは充分にありそうだがうまくそれが伝わっていない。そんなところにめちゃくちゃ強い宇宙人出現! どうする父ちゃん! 的な試行錯誤がキモである。

公平に見ればトム・クルーズは機転も利くようだし、致命的な判断ミスはなかったみたいだし、周りのひとが死ぬのに彼と彼の家族だけはなぜか説明なしで逃げおおせるという映画的な幸運にも恵まれているし、本来なら真にアメリカ的(≒アメリカ映画的)なヒーローとして映画的に称賛されるべきなのだろう。

ただし、それじゃもう、誰もリアリティを感じない。現代において、もはや完全なヒーローなど存在し得ないのだという一種の死刑宣告であり、娯楽映画が自分の首をしめながら同時に人工呼吸を施すようなマッチポンプでもある。

キャメロン・クロウ「エリザベスタウン」を見たときにも感じたことだけれど、巨大な予算を投じて、アメリカの理想に必死でしがみつく小さな手をあえて描こうとするある種の作り手たちのたたずまいには、奇妙な感動を呼ぶものがある。なにか圧倒的な変化がここでは取り扱われていて、しかし、明示されてはいない。「宇宙戦争」のその不穏さに、それでもわたしたちは、どこかほっとしているのではないだろうか? その理由は、まだよく分からないとしても。

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映画
comments(2)
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はじめまして!
戦争つながりでTBさせていただきました!

まだ宇宙戦争みていないのですが
この記事をみて見てみたくなりました!
>もはや完全なヒーローなど存在し得ないのだという一種の死刑宣告
目からうろこがおちました☆
rie : 2006/03/19 9:14 PM
はじめまして。TBありがとうございますー。
「ヒトラー〜」、見たいと思ってまだ見ておりません。
「宇宙戦争」、なかなかいびつで、いい映画だと思います。
ご覧になってください。
鈴木並木 : 2006/03/20 8:50 PM









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宇宙戦争
宇宙戦争を借りて、さっそく見たんよ。 白黒画面のプロローグ。天体の説明なんだけど、天体がCGではない。なんともレトロな天体なんよ。スピルバーグさん、珍しい手法なんよ。
パレログ : 2006/01/30 11:36 PM
まじめな日記
今日は新宿に友だちと映画を見に行った おもーい内容だったのでいろいろと考えさせられた 今日見にいったのは「ヒトラー ~最期の12日間~」 150分くらいの長い作品だったけど、見入ってしまった タイトルからもわかるように、時代は第・次世界大・末期 ソ連
語り場☆ : 2006/03/19 9:13 PM
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