
新文芸坐
支配人様
従業員一同様
拝啓
突然お便りを差し上げる非礼を何卒お許し下さい。小生、豊島区に住居しております映画フアンの鈴木と申します。自宅から近いこともあり、月に一、二度は必ず貴館を利用させていただいております。映画鑑賞なる趣味も、かつての“定番”の座から転落死、世間ではすっかり時代遅れになりつつあるなどとチラリと小耳に挟んだりもいたします昨今、徒にスリーディー映写などの流行を追わぬ貴館の姿勢は大いに支持に値すると感じております。
また、地元の商店とのタイ・アップによるサグーン・ロールの発売、朝の開場前のコーヒーの廉価販売なども、生憎と未だ利用するには至っておらないものの、興味深い試みと拝見しております。
さて、今回慣れない電子機器を操作しつつこのようなメールの筆を執るに至った理由ですが、映画フアン、及び貴館のフアンとしていくつか苦言を呈したく感じた次第です。それと申しますのは、貴館の特集上映の語呂の悪さと、チラシの図案の拙さについてです。
たとえば今般の「生涯現役を貫いた稀代の名優を偲ぶ 追悼 淡島千景」など、確かに内容と一致はしておりますものの、何んともだらだらとして、口に出した時に締まりがない感は否めません。日々、頭を捻っていらっしゃる皆様に此の様なことを申し上げるのは釈迦に説法とは存じますが、チャキチャキとした“おけいさん”にふさわしい、語呂の良いキャッチ・フレーズをつけていただきたかったと些か残念でなりません。
続いてチラシの件ですが、近年特に酷かったと記憶しておるのが、「にんじんくらぶ」の特集のチラシでした。女優を表に立てた特集のチラシとはとても思えず、折角の好企画が台無しになる図案と思え、少なからず失望させらました。様々なしがらみもあろうかとは存じますが、神保町シアター、ラピュタ阿佐ヶ谷等のチラシの目の覚めるような「センス」を、貴館においても是非採り入れていただけますよう希望いたします。
また、夏に向けて貴館では、恒例の戦争映画特集の企画を進めておられることと推察します。この企画は小生が最も楽しみにしている物でございまして、「戦争を語り継ぐ」意義、「忘れない」意志には大いに敬意を表する次第です。しかしながら、正直な所、毎年毎年代わり映えのしない番組の連続で、少々うんざりしてもおります。
勿論、年によって多少の新機軸を打ち出しておられる事、そしてそれが「旧作邦画フアン」や「常連」に余り受けがよくない事も承知しております。つきましては、余計な御世話との謗りを受けるのを承知の上で、「2012年バージョン」の日本の戦争〜戦後関連映画の番組案を考案してみました。貴館の慣例通り、各日2本立て、1週間のプログラムを想定しております。勝手ながら、選出意図についての簡単なコメントも添えてみましたので、参考にして下さいませ。
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【第一日】
・斎藤寅次郎「東京五人男」(1945年)
・成瀬巳喜男「おかあさん」(1952年)
☆「東京五人男」は、「狐の呉れた赤ん坊」と並んで、戦後日本映画が産んだ最初の傑作であると考えております。「おかあさん」では、直接的・間接的に、人がバタバタと死んでゆきます。登場する死者の数では、成瀬巳喜男の映画の中でこれが一番でしょう。
【第ニ日】
・今井正「純愛物語」(1957年)
・蔵原惟繕「愛と死の記録」(1966年)
☆美しい原爆映画2本。今井正嫌いのいわゆる「シネフィル」諸氏は、高峰秀子が彼のことを「日本で5本の指に入る演出家」と書いている事実についてはどうお考えでしょうか。この日は、江原真二郎、中原ひとみ夫妻のトーク・ショウ付きで願います。
【第三日】
・前田陽一「喜劇 男の子守唄」(1972年)
・岡本喜八「江分利満氏の優雅な生活」(1963年)
☆戦後の怨念が渦巻く2本。戦後初期の世相を表すのにもっと多く使われる「リンゴの唄」とネガ・ポジの関係にある菊池章子の「星の流れに」を執拗に使用した「喜劇 男の子守唄」のクドさを振り返りたいと思います。
【第四日】
・マキノ雅弘「朝やけ血戦場」(1956年)
・山内鉄也「忍者狩り」(1964年)
☆時代劇2本。日本映画は伝統的に、パルチザンやゲリラ戦を描くことがあまり得意ではなかったと思いますが(そういう体験がなかったのでやむを得ません)、時代を現代に限定しなければ、それに類した事例を見出すことができます。
【第五日】
・木村栄文「記者それぞれの夏」(1990年)
・井土紀州「レフトアローン1&2」(2005年)
☆戦後左翼映画の教条主義的・人間置き去りの硬直性から遠く離れたところで人間を見つめるドキュメンタリー2本。長いスパンで戦後を捉えています。
【第六日】
・押井守「機動警察パトレイバー2 the Movie」(1993年)
・篠崎誠「忘れられぬ人々」(2000年)
☆1945年以来、半世紀にわたって作られてきた愚にもつかない戦後映画の屍の上に、ようやくこれらの作品が登場したことは喜ばしいことです。こうした特集の一部として上映されることで評価が活性化することを希望して。
【第七日】
・小川紳介「三里塚 第二砦の人々」(1971年)
・舛田利雄「あゝひめゆりの塔」(1968年)
☆迫真の戦争映画2本。前者は、実際の戦闘シーンを多数収録。後者は、今井正版(小生はこれも好きですが)と同じくらいの頻度で上映されるべきと考えています。貴館でもようやく昨年上映されたのは有難かったです。
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長々と書き連ねて参りましたが、最後に、今後番組編成に困った場合でも、安易に「フアン投票」などの手法に頼ることのないよう、進言いたします。素人がよってたかったところで所詮は素人であり、よい番組を組むことは到底出来ません。貴館のスタッフの映画人としての矜持に期待します。貴館の益々の発展を祈りつつ。
敬具
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